網膜は、眼の奥にある厚さ約0.1~0.4ミリの薄い膜です。ものを見る重要な部分で、10層に分かれています。内側の9層は神経網膜といい、外側の1層は網膜色素上皮細胞(もうまくしきそじょうひさいぼう)といいます。神経網膜には光を感じる細胞が並んでいます。
網膜の中で一番重要な部分は、中央にある黄斑部(おうはんぶ)です。黄斑部には、視力や色の識別に関係している細胞があります。
網膜色素上皮細胞と神経網膜の接着は弱いので、何らかの原因で神経網膜が網膜色素上皮細胞からはがれて、硝子体の中に浮き上がってしまうことがあります。
これが網膜剥離です。網膜剥離は、裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離と呼ばれる網膜に裂孔(裂け目)を伴うものが一般的です。
眼球の中の硝子体は、中高年になると、液化硝子体と呼ばれる水の部分ができて、眼球の動きとともに硝子体が眼球内で揺れ動くようになります(後部硝子体剥離参照)。硝子体と網膜が強く癒着している部分があると、眼球の動きで網膜が引っ張られ、裂孔ができてしまいます。その裂孔から液化硝子体が網膜下に入り込むと、網膜ははがれてしまいます。これが裂孔原性網膜剥離です。
また、ボールが目に当たるなど、強い力が目に加わって網膜が剥離してしまう外傷性網膜剥離も、裂孔原性網膜剥離のひとつです。
糖尿病網膜症では、出血しやすい血管を含んだ膜が網膜の上にできます。この膜が収縮して網膜を引っ張ると、網膜が剥離してしまいます(牽引性(けんいんせい)網膜剥離)。
ぶどう膜に炎症があったり、眼内腫瘍などがあると、網膜血管や脈絡膜から血液中の水分が滲み出し、網膜下にたまって網膜が剥離することがあります(続発性網膜剥離)。
このような場合、原因となっている疾患の治療を行います。
● 生理的飛蚊症
硝子体は年をとると、線維の一部が濁ってきます。そして濁った部分が網膜に影を落とすことがあります。これは加齢による生理的な現象で、病気ではありません。だいたい60歳頃になると、約3割の3人に飛蚊症があるといわれます。しかし、黒い点の数が増えたり、視力が急に落ちたときには、出血や網膜剥離などがおこっている可能性があるので、すぐに診察を受けて下さい。
● 後部硝子体剥離
子どものころには硝子体が眼球の中にいっぱいつまっていて、網膜との問にはすき問がありません。ところが、人によっては年をとるにつれて硝子体が液状に変化し、網膜から浮き上かってしまう場合があります。これを後部硝子体剥離といいます。
後部硝子体剥離がおこるときに、網膜と硝子体の間に癒着があると、硝子体が網膜をひっぱります。このとき、光が走るように以えることがあります。この癒着が取れると、光が走らなくなります。後部硝子体剥離自体は、一部の人におこる正常な現象ですが、この癒着が強い場合、硝子体が網膜を強く引っ張り、網膜剥離をおこすことがあります。
● 眼底検査
●視野検査
見えない部分の位置を調べる検査です。見えない部分と、病変の部分は対応しています。
手術には次のようなものがあり、症状や剥離の進行状態によって、どの手術を行うかが決まります。
網膜剥離の進行状態 | 手術の種類 | 手術の内容 |
---|---|---|
網膜に裂け目ができる | 光凝固術 (ひかりぎょうこじゅつ) |
裂け目の周囲をレーザー光でふさぐ |
液化した硝子体が裂け目に入り込み、網膜がはがれる | 網膜復位術 (もうまくふくいじゅつ) |
剥離した網膜を元の位置に戻す |
網膜に裂け目ができたときに血管から硝子体に出血する | 硝子体手術 | 出血によって濁った硝子体を取り除く |
通常の網膜剥離の手術を行い、いったん治癒しても、網膜の表面や裏に細胞が増殖して線維組織ができて、網膜剥離をおこすことがあります。非常にまれな経過です。増殖性硝子体網膜症にかかると、手術を繰り返し行わなければならないことがあります。
手術には次のようなものがあり症状や剥離の進行状態によって、どの手術を行うかが決まります。
● 手術を受ける心構え
あまり動くと剥離が広がるおそれがあるので、手術を受けるまで安静にしましょう。
ストレスを感じたり、むやみに心配したりして、精神的に緊張するのもよくありません。不安なことやわからないことがあれば、遠慮せず担当医に相談し、心身ともにリラックスして手術を受けるようにしましょう。
● 手術後の視力
通常の裂孔原性網膜剥離は、90%以上が手術的に再接着できます。剥離の範囲が小さく、剥離してから放置している期間が短いほど、手術後によい視力が得られる傾向にありますので、診断がついたら担当医の指示に従って、速やかに手術を受けるようにしましょう。
● 安静の期間と入院期間
手術の後は、担当医の指示に従って安静にします。光凝固術の場合は、入院の必要はありません。その他の手術では、経過によりますが、約10日間程度で退院できることが多いです。
手術の種類 | 入院期間 |
---|---|
光凝固術 (ひかりぎょうこじゅつ) |
外来にて日帰りで施行 |
網膜復位術 (もうまくふくいじゅつ) |
約1〜2週間 |
硝子体手術 | 約1〜3週間 |
● うつむき姿勢
硝子体手術の場合、眼内にガスを注入することがあります。ガスは軽いので、上方に向かう特性があります。
うつむき姿勢を保って安静にすることで、ガスは網膜を元の位置に戻し、くっつける手助けをします。網膜がくっつくまでうつむき姿勢を保って安静にしましよう。
● 仕事や運動などの制限
手術後に眼を動かしても、手術の結果に大きな影響はありませんが、眼内の状態が落ちつくまでに1~3か月必要です。少なくとも術後1か月間は、疲れない程度に眼を使用して下さい。
事務や管理職の方は、手術後1か月めから、運転手や重労働の方は2か月ごろから仕事に復帰できます。日常生活でも、術後1か月間は重いものを持ったり、走ったり、車の運転をすることなどは避けてください。